令和元年10月1日から再構成にしていきます。

 

 

「生きていく上でのヒント…いろいろ」

 

ヒントを見て頂くにつけても、まず次の一文に何かを考えてください。

 

「赤ちゃんの握りこぶし」

 … 電車の中でたまたま見知らぬ赤ちゃんと目が合いました。その時、赤ちゃんから「子どもは大事に育ててください」と言われたらしい思いを書きながら、タイトルにと考えました。

 

赤ちゃんの握りこぶし                

赤ちゃん
手を握っているその中に何が入っているのかな。
よかったら、このおじいさんにそっと教えてくれないだろうか。
だめだめ。それはだめ。だって、僕は生れたときに、神様に言われたんだ。
握っている僕の手の中を、「人に見せてはいけないよ」って。


でもね、おじいさんを見ていると、どこか寂しそうだから、思い切って見せてあげるよ。
ただ、僕が握っている手を開いても、普通の人には何も見えないんだって。
だから、僕がお話してあげるから。


一つの塊は、希望って言うんだって。もう一つは、健康と病気の塊なんだって。
そのほかに、喜びの塊っていうのもあるし、悲しみの塊っていうのもあるんだよ。

これから僕が育てられていくうちに、それぞれの塊が、大きくなったり小さくなったり、
中には、消えてしまう塊もあるんだって。

それがどういうことなのか、赤ちゃんの僕には勿論分からないんだ。
大人は誰も、こんなことを赤ん坊が考えているなんて思うわけないよね。

でも、僕は心配なんだ。
これから、僕の周りに寄って来る大人の人たちが、僕のそうした塊を、どのように育ててくれるのか分からないからね。
おじいさんは歳を取っているようだから、もしかして、僕の心配が分かるのかな。

赤ちゃんの話を聞きながら、老人は自分の過ぎてきた人生を、
心の中に、熱い涙を流しながら、思い起こさずにはいられなかった。

老人の足は、今、気持ちの揺れに合わせるように、がくがくしていた。
そして、今にも、目の前の赤ん坊に、泣いてすがりたい様子に見えた。

老人は、自分の流す涙にはっとして、曇る目で赤ちゃんを見ると、
赤ちゃんはいつの間にか、いつものように、可愛いい手を握りこぶしにしたまま
すやすやと眠っていたのである。

老人は、赤ちゃんの握りこぶしを、暫くの間、温かい気持ちで優しく包んでから、
普段の生活へ戻ろうと、静かにその場を立ち去っていった。